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第3回GCLSプレゼンコンペ受賞者寄稿 竹内雅樹さん

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第3回GCLSプレゼンコンペティションでソーシャルICT賞(最優秀賞)を受賞された竹内雅樹さんに研究紹介の記事を寄稿いただきました。

自己紹介

東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻博士後期課程2年の竹内雅樹です。バイオエンジニアリング専攻の教授で電気系工学専攻も兼任されている、関野正樹先生の研究室に所属しています。喉頭がん等の病気で声を失った方のためのハンズフリー型の電気式人工喉頭の研究開発をしています。

プレゼンの概要

喉頭がんなどの病気により声を失った方が従来使用するのが、電気式人工喉頭またはELと呼ばれる円筒状のデバイスです。ボタンを押すと先端が振動し、喉に押し当てることで口パクで話ができるようになります。しかし、使用時に片手が塞がる、機械的で単調な音声しか出せない、市販されてからインタフェースが変わっていない、という課題がありました。そこで私たちはヒトに近い声で話すことのできるハンズフリー型のEL『Syrinx』を開発しました。首に装着できて、ヒトの声帯に近い振動を皮膚に与えます。これによりヒトに近い声で話すことができます。また、スタイリッシュな意匠デザインを有しており、ユーザーの好みに合わせてカバー部分を好きな色にカスタマイズできます。これにより手で何も持つことなく、ヒトに近い声で話すことができ、かつオシャレな見た目をしているため、声を失った方が日常生活で何不自由なく話せる社会を実現しました。またSyrinxの開発に当たっては銀鈴会という声を失った方の発声支援を行っているコミュニティに通い、テストとフィードバックを繰り返しました。声を失った方々からは伺うたびに毎回『期待しているよ』と言っていただき、背中を押してもらえます。銀鈴会の皆さんが楽しい会話を取り戻してほしい、その想いが研究開発のモチベーションとなっています。

Syrinxはスタイリッシュな意匠性を有し、ユーザー好みの色にカスタマイズが可能

Syrinxはスタイリッシュな意匠性を有する

受賞の感想

別の発表者で審査員および客席の反応が良かった方がいらして、その方がソーシャルICT賞を獲得されると思っていました。そのため、自分の名前が呼ばれた時は驚きましたが、ソーシャルICT賞を目指してプレゼンの準備を行ってきたので嬉しかったです!

プレゼンの工夫

GCLSのホームページに掲載されている第1回および第2回の受賞者の寄稿、さらに当日の登壇者に事前にメールで配布される評価用ルーブリックを熟読しました。これらには賞を獲得するための多くのヒントが書かれているため、受賞したいと思っている方は読むことをお勧めします。
私なりに解釈した結果、過去2回の受賞者に共通するのは、最先端のICT技術を使用している、というよりも、解決したい社会課題が明確である、という点だったため、技術の話よりも社会課題の話に重きを置きました。
私の場合、『声を失った方のデバイスを開発して、このような技術を使用している』というプレゼンでなく、まず『世界では毎日何人の人が声を失っていて、それを解決するはずのデバイスであるELは未解決の課題が多い』という社会課題がどれだけ深刻であるかということを詳しく説明しました。

世界では1日に822人の人が声を失っています。

解決したい社会課題の重要性を強調

次に、『銀鈴会という実際に声を失った方々のコミュニティに伺って試用の協力をいただいている』ということも強調しました。社会課題を説明する上で具体的なユーザーが想定されていることは、聞き手が理解しやすく非常に大事であるためです。
さらに、自分が考えているデバイスとの競合技術についても説明しました。自分の場合は人工音声が競合技術でした。『確かに人工音声では自然な音声を作ることができるものの、スマホやパソコンなどで話したい内容を入力してスピーカーから声が出るまでに時間の差があり、口を動かすよりも会話がスムーズにいかない』と説明しました。説明をしないと確実に審査員から質問されるため、そこで回答するのでも良いのですが、発表内容に盛り込むことで既存技術との差を十分に考えているとアピールできます。

Syrinxと競合との比較

Syrinxと競合との比較

最後に、ソーシャルICT賞を受賞したら、何に使用するのかという具体的な目標を掲げました。目標を明確にすることで、自分がどうしてこの大会に出場するのかという意義を、審査員の方々に伝えることができるためです。

副賞の活用

声を失った方にSyrinxを試用してもらえるワークショップを開きたいと考えています。現在、患者さんからSyrinxを試したいと言われても、近場でないと試しに伺えません。しかし、実際に遠方の患者さんからのお問い合わせが来ると、郵送やzoomでのやり取りになります。身体が不自由な方も多いため言語聴覚士さんやリハビリの方がいないと時間や手間がかかり諦めてしまう方が多いです。そこで、ワークショップを開くことで遠方の方でも使用に興味を持ってもらえると考えており、その資金として使用したいと思っています。

寄稿:竹内雅樹