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第4回GCLSプレゼンコンペ受賞者寄稿 矢崎武瑠さん

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第4回GCLSプレゼンコンペティションで審査員特別賞を受賞された矢崎武瑠さんに研究紹介の記事を寄稿いただきました。

自己紹介

東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻所属、博士1年の矢崎武瑠です。修士課程のときから、360°カメラを用いた遠隔コミュニケーションシステムの研究を行っています。その研究では、システムの開発はもちろんですが、システムをあらゆるシーンや課題の当事者に使ってもらうことに注目しています。

プレゼンの概要

私が研究している遠隔コミュニケーションやテレプレゼンス・テレイグジスタンスとは、映像・音声通信やロボットを用いて離れた人同士がまるで一緒にいるかのような体験を実現する技術です。電話やビデオ通話はもっともシンプルな遠隔コミュニケーションの例と言えます。映像・音声に加え、ロボットや大型ディスプレイを用いて、遠隔地にいる人の存在感をより豊かに伝えようとするものがテレプレゼンスやテレイグジスタンスです。

皆さんご存知の通り、現在では多くの人々が遠隔コミュニケーション技術を利用しています。特にコロナ禍以降、遠隔会議や遠隔授業、遠隔作業支援などが普及しています。これらのコミュニケーションが行われる場所は屋内です。また、コミュニケーション自体も会話の型や見せたいもの、話したいことが決まっているという特徴があります。例えば、多くの遠隔会議では参加者の顔や資料のみ共有されれば問題ありません。一方で、旅行や買い物などの体験を遠隔地にいる人と共有したい場合は、現状のシステムはあまり適しているとはいえません。旅行などの屋外アクティビティでは、会話の型が決まっておらず、体験のセレンディピティ性が醍醐味となります。そのため、見せたいものや話したいことが決まっておらず、変化するため、それらを遠隔地に伝える工夫が必要となります。

特に屋外アクティビティ共有が重要となるのは、身体的・物理的制約がある人々です。今は落ち着いていますが、感染症のパンデミックなどが発生すると社会的制約も生まれます。例えば、高齢者や怪我人には身体的制約、遠く離れた場所にいる人同士には物理的制約が存在します。このような人々にとって、屋外アクティビティの遠隔共有はQoL (Quality of life) の向上につながると考えられます。遠隔コミュニケーションシステムやテレプレゼンスシステムは人々をこれらの制約から解放し、より豊かな生活を生み出す可能性があります。

私を含む研究チームは、屋外アクティビティを共有するシステム、T-Leapを開発しました。T-Leapは360°カメラを用いたウェアラブル遠隔コミュニケーションシステムであり、離れた人同士が一緒に歩いているかのような体験を実現します。T-Leap内にはNodeとViewerという2つの役割が存在します。Nodeは360°カメラを装着し、屋外を自由に探索しながら映像を配信します。ViewerはNodeから配信される360°映像の画角を自由に選択しながら、映像を視聴します。従来の固定角カメラによる遠隔コミュニケーションでは、画角の制限やカメラワークの課題が存在しましたが、360°カメラはそれらを解決します。両者間では双方向音声通信による会話も可能です。また、Nodeの顔の横にカメラを配置することで両者が並んで歩いているかのような体験を実現します。

テレプレゼンスシステムT-Leap

テレプレゼンスシステムT-Leap

私はこれまでT-Leapを用いた様々なケーススタディを実施してきました。特に社会的課題の当事者を参加者とした実社会フィールドでのケーススタディを実施してきました。以下はそれらの例です。

  • 遠隔葬儀中継:コロナ禍で葬儀場に集まることが困難な高齢者に葬儀を中継
  • 市街地ガイド:日本に来ることが困難な外国人に観光地を遠隔ガイド
  • 買い物支援:山岳地域に住んでいるため買い物に行くことが困難な高齢者の代わりに買い物
T-Leapを用いたケーススタディ

T-Leapを用いたケーススタディ

これらのケーススタディの結果、T-LeapではViewerが映像から思いがけないものを発見し、セレンディピティなコミュニケーションが誘発されることがわかりました。例えば、市街地のガイドではViewerが360°映像を見回し、Nodeに適切なガイドを行っていました。また、買い物支援では、Viewerがリアルタイム映像から目的の商品以外の商品を偶然見つけ、ついそれらを買ってしまうという振る舞いが観察されました。一方で映像の解像度や操作インターフェースの課題も確認されました。例えば、ネットワーク次第では映像の解像度が大きく低下してしまうこと、360°映像操作に慣れるまで時間がかかることなどが挙げられます。これらの課題は今後私が取り組もうとしていることの一部となっています。

私は遠隔コミュニケーションやテレプレゼンスシステムの開発によって、人々が物理的制約から解放され、離れた環境がシンクロする社会を実現したいと考えています。

本研究が目指す社会像

本研究が目指す社会像

プレゼンの工夫

私は以前、指導教員から「プレゼンは誰が聞くかを意識しなければならない」というアドバイスをいただいたことがあったので、GCLSの理念やオーディエンスの方々がどういうモチベーションで自分の発表を聞いているのか考察しました。このプレゼンコンペティションでは幸いなことにプレゼンの評価項目が明示されています。それをよく見ると、「社会課題」や「社会実装」などのワードが重要であることがわかります。そこで、自分の研究がどのような社会課題を解決しようとしているのか、研究を社会に展開するためにどのような試みを行っているかをプレゼン内で明示しました。学会や学位審査会などで発表する内容と全く同じ内容を発表するのではなく、社会実装や社会への還元を意識したプレゼンを行う必要があると思います。

寄稿:矢崎武瑠